日本における国際結婚がこの10年増えていないという事実
日本の至る所で外国人旅行者や外国人労働者、国際ファミリーなどを目にするようになり、TVでも外人やハーフタレントの活躍を目にする機会も増え、国際結婚が増えているような印象を抱きますが、実際はその数は2006年から10年以上横ばい状態が続いています。
イメージと現実のこの大きなギャップの要因はどこにあるのでしょう。歴史や社会的背景による国際結婚のイメージの変遷を辿りながら、その秘密を探ってまいりましょう。
1.国際結婚の歴史とイメージの推移
(1) 明治~戦前
日本で国際結婚が公式に許可されるようになったのは1867年で、第一号の国際結婚は長州藩の英国への日本人留学生の男性と英人女性との結婚が記録されています。
文明開化から戦前にかけて欧米化推進政策により西洋との関係も深まり、日本の富裕層や文化人の男性と欧米人女性との結婚や、欧米人富裕層の男性と日本人女性との結婚など、当時の国際結婚は経済的に恵まれた富裕層や、留学経験を持つ英語堪能な教養ある文化人など、一部の特権階級に許された選民的なイメージがありました。
作家で民族学者の小泉八雲と節子の出会いと結婚、さらにオペラ歌劇「蝶々夫人」などの人気で、国際結婚には「富」「禁断の恋」といった優雅なロマンチシズムが漂っていたのです。
(2) 戦後
第2次世界大戦終結後は、アメリカなど連合国軍の軍人と日本人女性の国際結婚が多く、日本を敗戦に追いやった連合国軍人との結婚は蔑まれるものでした。
日本人花嫁は「戦争花嫁」と称され、軍人相手の娼婦「パンパンガール」との線引きも甘く、多くのカップルはそんな差別意識の強い日本を離れ外国に移住して行きました。
(3) 1980年代~2000年
1976年にヒットした新沼謙治の「嫁に来ないか」に象徴されるように、この時代は男性にとって結婚難民時代となり、特に東北の農村などでは嫁不足が深刻となっていきました。
その対策として農協や自治体が働きかけ、中国人や東南アジアのフィリピン人とのお見合いが盛んに行われ、アジア人との国際結婚数も一気に増加しました。
当時の国際結婚はこうした過疎化による結婚難民救済措置として、アジア人花嫁の「輸入・調達」といった制度的側面が先行し、国際恋愛といったロマンチックなイメージは消失していきます。
(4) 2000年~現在
かつてより欧米の文化人の間で日本ブームは少しずつ開花していましたが、1990年代に入ると日本の漫画、アニメが世界中で大人気となり日本ブームが巻き起こりました。
インターネットなどの通信技術の発達により、料理やサブカルチャーなど日本文化に興味を持つ外国人が増え、多数日本に押し寄せるようになり、外国人との出会いや国際結婚も増えていきましたが、2006年をピークに国際結婚の数は減少していきます。
2.国際結婚の割合の推移
第1章で述べたような社会的背景の推移もあって、日本における国際結婚は1980年代以降急増し、2006年には5~6%に達しピークを迎えます。
しかし厚生労働省の「人口動態調査」によると、その後国際結婚の数は増えるどころか減り、10年間その割合は約3%代とずっと横ばいが続いているのです。
同調査によると、この20年間で国際結婚をしたカップルの組み合わせにも変化が見られます。
【1996年の組み合わせ順位】
順位 | 夫の国籍 | 妻の国籍 | 割合(%) |
---|---|---|---|
1位 | 日本 | フィリピン | 23.4 |
2位 | 日本 | 中国 | 22.1 |
3位 | 日本 | 韓国・朝鮮 | 15.7 |
4位 | 韓国・朝鮮 | 日本 | 9.9 |
5位 | 日本 | タイ | 6.2 |
6位 | その他の国 | 日本 | 6.0 |
7位 | 米国 | 日本 | 4.8 |
8位 | 日本 | その他の国 | 3.6 |
9位 | 中国 | 日本 | 2.7 |
10位 | 日本 | ブラジル | 1.9 |
※「韓国、北朝鮮、中国、フィリピン、タイ、米国、ブラジル、ペルー、英国以外の国」を指します。
【2016年の組み合わせ順位】
順位 | 夫の国籍 | 妻の国籍 | 割合(%) |
---|---|---|---|
1位 | 日本 | 中国 | 26.1 |
2位 | 日本 | フィリピン | 15.9 |
3位 | 日本 | その他の国* | 11.1 |
4位 | 日本 | 韓国・朝鮮 | 9.6 |
5位 | その他の国* | 日本 | 9.5 |
6位 | 韓国・朝鮮 | 日本 | 7.7 |
7位 | アメリカ | 日本 | 5.0 |
8位 | 日本 | タイ | 4.6 |
9位 | 中国 | 日本 | 3.7 |
10位 | ブラジル | 日本 | 1.5 |
※2016年の同調査で47都道府県で国政結婚率を日本人の男女別に比較したところ、順位は以下のようになりました。
【日本人男性国際結婚率】
順位 | 都道府県 | 国際結婚率(%) |
---|---|---|
1位 | 岐阜県 | 4.1 |
2位 | 東京都 | 3 |
3位 | 千葉県 | 3.77 |
【日本人女性国際結婚率】(2012年の資料)
順位 | 都道府県 | 国際結婚率(%) |
---|---|---|
1位 | 沖縄県 | 3.56 |
2位 | 東京都 | 1.84 |
3位 | 大阪府 | 1.47 |
このような国際結婚カップルの組み合わせ、国際結婚が多い都道府県の統計は、何故国際結婚が横ばいであるのか、ヒントを与えてくれそうです。
次の章でその理由をみてみましょう。
3.国際結婚が増えていない理由
町やTVで外国人を見かける機会も増えたのに、国際結婚は増えていないという現実、そのギャップの原因はどこにあるのでしょうか。
(1)偽装結婚の横行
国際結婚数減少の原因の一つが、日本滞在を合法化する配偶者ビザ取得を目的とした「偽装結婚」「結婚詐欺」などの摘発が増えたことにあります。
第2章で見た「国際結婚をしたカップルの組合せ」で、20年の間に「日本人男性Xその他の国の女性」が3位に浮上しています。日本人男性が選ぶ「その他の国」の女性の多くは、ロシア、ルーマニア、ウクライナといった経済的に貧しい東欧諸国が並びます。
これらの国々の女性は日本在住比率が高く、配偶者ビザをもらうとすぐに永住ビザに切替え、その後離婚といった、いわゆる「偽装結婚」が多いと言われています。
偽装を疑われると結婚許可は下りず、国外退去にもなる場合もあるため、以前は簡単にできたであろう偽装結婚も減少し、国際結婚の増加に歯止めをかけているようです。
(2)メディアによるイメージ先行
【外人&ハーフタレントの増加】
近年TVなどのメディアで外人やハーフタレントが増えてきて国際結婚が増加したイメージがありますが、それが国際結婚の増加につながるわけではありません。
彼らの両親が外国で結婚し入籍した場合は、日本の国際結婚の統計に入りませんし、両親が日本在住であっても、片親が日本国籍を取得した外国人の場合国際結婚とはみなされないからです。
【日本人女性と外国人男性の結婚がクローズアップ】
日本のTV番組では「世界の日本人妻は見た」など、日本人男性よりも「日本人女性X外国人男性」を取り上げる傾向が強く、日本人女性の国際結婚が増えているような印象を与えます。
しかし、第2章の表を見ると、「日本人女性X外国人男性」の組み合わせは第5位が最高で、実際は1位~4位まで「日本人男性X外国人女性」が占めており、10位までその比率は67.3%と約7割が日本人男性の国際結婚になっているのです。
つまり、「日本人女性X外国人男性」のカップルがメディアに多く登場することで、国際結婚が増えたような錯覚を覚えますが、実際はそれほど増えてはいないのです。
(3)海外で婚姻届けを出した場合
日本人男性に比べ、日本人女性の国際結婚が近年増えてきていますが、配偶者が日本人女性の場合、相手の外国にすでに在住していたり移住するケースが多く、海外でのみ婚姻届けを出したり、日本と海外の両方で婚姻届けを出す場合があり、正確な統計の数字を産出するのが困難になることもあるようです。
また中国人と結婚した場合は、先に日本で婚姻届けを出すと中国側に受理されないため、中国側で婚姻手続きを行うなど、事例によっては日本の国際結婚の統計に正確さを欠く状況も発生するようです。
4.まとめ
国際結婚の数はさほど増えていないものの、日本人女性の国際結婚が増えていることが注目されます。
彼女たちが選ぶ相手の外国人は、女性より年下だったり、学歴や所得が低かったり、女性も相手の国籍にこだわらなかったりと、日本の伝統的な男女の結婚条件や価値観から大きく変化しています。
近年結婚したくてもできない日本人男性が増加している昨今、日本人男性も女性にならってこうした価値観の変化を目指すことが、結婚の可能性をより広げてくれるのではないでしょうか。